「便利だったら売れるんじゃないの?」タイトルを見てそう思いませんでしたか?
ロボット掃除機、全自動洗濯機、電子レンジ、人々は例外なく利便性を追求してきました。そう、「便利にすれば売れる」と、多くの人が信じています。
ですが、真実は真逆。便利さだけでは人の心は動きません。人間は利便性を追求するという定説を覆す衝撃のマーケティングの事例があります。
舞台は1940年代のアメリカ。 当時、「ベティ・クロッカー」というブランドが、画期的な商品を世に出しました。 それが、みなさんもよく知っている『ホットケーキミックス』です。
ホットケーキミックスにはすべての材料が入っていて、水を加えて焼くだけで完成するという、夢のような商品でした。
時短、簡単、失敗しにくい。
まさに理想的なプロダクト。 誰もが「これは絶対に売れる」と信じていました。
ところが、実際には売れなかったのです。
「便利すぎて売れない」という矛盾
なぜ売れなかったのか? その理由は、消費者の“ある感情”にありました。
当時の主婦たちからは、
「水だけで作れるなんて、手抜きに見える」
「ちゃんと作ってないって思われるかもしれない」
「家族に愛情がこもってないと思われるのが嫌だ」
そう感じられていたそうです。
つまり、“便利すぎる”ことが、かえって罪悪感を生み出していたんですね。
この背景には、心理学でいう「自己効力感(self-efficacy)」や「努力の正当化(effort justification)」という概念が関係しています。
人は、自分が手間をかけたり努力をしたことに対して、「それには意味がある」「価値がある」と感じたいという本能があります。
例えば、DIYなんかはこの心理学を裏付ける典型例ですよね。
家具でも家でも、明らかにプロに任せて組み立てた方が早いのに、自分で時間をかけて、ちょっと間違えた部分があっても「これはこれで味がある」と評価してしまいます。
逆に、何もしていない・楽をしてしまったと感じると、「これは手抜きだったのでは?」「愛情が足りなかったのでは?」という“無意識の罪悪感”が生まれることもあるというわけですね。
ホットケーキミックスも、これが購買のブレーキになっていたんです。
メーカーがとった意外な解決策
では、いったいどうやってこの状況を打破したのか?
ここで、メーカーは驚くべき決断をします。
なんと、あえて粉の中から卵と牛乳の成分を抜き、「自分で加える工程」を復活させたんです。つまり、“手間をかける余地”を意図的に残すよう設計し直したということ。
現代の感覚からすると「なんでそんなことを?」と思うかもしれませんが、この「わざと手間を増やす」という戦略こそが、消費者の“心の抵抗”を取り払う鍵になりました。
実際にこのリニューアル以降、ホットケーキミックスは売れ始め、今でもスーパーの棚で見かけるように、驚くほどの勢いで市場に浸透していきました。
なぜ、ホットケーキミックスはヒットしたのか?
理由はシンプルです。人は、「自分の手で作った」という体験がほしいから。
卵を割り入れる、牛乳を注ぐ、そのほんの一手間があるだけで、
「私はちゃんと作った」
「家族のために料理した」
「これは手抜きじゃない」
そう思える“自己効力感”が生まれたのです。
つまり、商品としての完成度を下げたことで、体験価値はむしろ高まった。
その結果として、ホットケーキミックスは「便利なのに、愛情も伝えられる商品」へと進化したんすね。
人は便利だけでは動かない
もちろん、私たちはラクをしたい生き物です。
「時間をかけずにできるなら、そのほうがいい」
「めんどくさい工程は、できれば省きたい」
これは自然な感情であり、マーケティングの現場でも「便利さ」は強力な武器です。
でも、それだけでは人は“買う”という行動に至らないのも事実。
なぜなら、人が本当に動くときには、「それをラクだと思える理由」や「その便利さがもたらす意味」が必要だからです。
つまり、
便利=ただのベネフィットではなく
便利=意味のある変化として“感じられる”かどうか。
たとえば「3分でできる」ではなく、「3分で、朝の自分時間が戻ってくる」と言われると、意味が生まれます。
「ワンクリックで登録」ではなく、「迷わず始められる、あなた専用の第一歩」なら感情が動きます。
読者は、「ラクになれる」という機能だけでなく、「なぜそのラクさが自分に必要か」という意味づけを求めているというわけです。
だからこそ、セールスコピーに必要なのは、「手間を増やすこと」ではなく、「本質的な価値を見抜き、それを感じさせること」。
商品そのものの機能だけでなく、それが読者にとってどんな変化や感情をもたらすのか?
そこにこそ、購買の理由が眠っているのです。
便利さは正しい。
でも、便利さだけでは足りない。
読者が「自分にとっての意味ある価値」として、そのラクさを“実感できるかどうか”が、勝負の分かれ目なのです。
セールスコピーにも通じる“感情設計”の視点
このホットケーキミックスの事例は、セールスコピーやLP制作にもそのまま応用できます。
たとえば、「ラクですぐにできる」というフレーズは、確かに目を引きますし、反応も取りやすいかもしれません。
ですが、それだけでは“安っぽさ”や“うさんくささ”を感じさせてしまうこともあります。
読者は、ときに「便利さ」そのものよりも、「自分で選んだという感覚」や「少しでも頑張った実感」に価値を感じるものです。
こうした“感情的な満足感”があるかどうかが、商品やサービスを選ぶ決め手になります。
だからこそ、売れるコピーとは、ただメリットを伝えるものであってはいけません。読者の中にある“感情のスイッチ”を押すこと。
結果を出すコピーは、例外なく「感情の動線」が丁寧に設計されています。
感情を動かさずして、行動は生まれない。それがセールスライティングの本質です。
コメント コメントは全て目を通しております